「イリミネーションタッグマッチ」Ⅴ

サンダー龍子・マイティ祐希子
VS
桜井千里・草薙みこと・伊達遥


 龍子側は他に祐希子のみを残し、相手は桜井・みこと・伊達という中核の三人。
 ほんの一瞬の出来事から劣勢に立たされたベテラン二人は、いよいよ反則に手を染め始めた。
 引き続きリングに残る伊達に対して龍子が出て行ったその陰で、
 コーナーに待機する祐希子がこっそりとターンバックルのカバーに手を掛ける。
 龍子は正面から伊達と打ち合いつつ、カバーが完全に外されたのを確認すると、
 おもむろに伊達の顔面に爪を立てて引っ掻いた。
「あっ!?」
 怯んだ伊達を掴み、作業の終わった赤コーナーに向けて思い切り振る。
 結果、普段通り背を向ける形でコーナーに振られた伊達は、剥き出しになった金具で背中を強打。
 思わず伊達が数歩前に出てきたところを龍子が抱え上げ、
 リング中央へ向き直りつつスパインバスターを決めて、フォールへ。
(こ、これぐらいでっ…!)
 伊達は勢い込んで返そうとしたが、
「…えっ!?」
 不意に両足を掴まれて下半身の勢いを殺され、これで3つ入ってしまった。
 リング下にしゃがんでいた祐希子が、場外から手を伸ばして伊達の足首を掴んだのだ。
「そ、そんなっ…!?」
「ハイハイ、負けたらさっさと帰るのよ!」
 驚きと怒りでわけがわからなくなり、試合モードから半分素に戻りながらレフェリーに食ってかかった伊達は、
 完全にヒールと化したベテラン達によって場外へ投げ捨てられた。
「さて、と。……うわ、怒ってるね」
 青コーナーの二人、特に伊達のタッグパートナーであるみことは歯を食いしばり、
 顔を引きつらせて対角線上を睨んでいる。
「それじゃ、あとはよろしく」
「了解だ」
 祐希子は何事か龍子と確認したあと、
「あなた達はッ…!!」
 と、怒りに任せて襲い掛かって来たみことを避け、場外へ逃げた。
 そして珍しくリング外まで追ってきたところを二人掛かりで客席に放り込み、
 祐希子が残ってみことと場外乱闘を続けている間、龍子だけは平然とコーナーに戻り、桜井を牽制。
「いけない!戻って!!」
 場外カウントが半分まで数えられたところで、桜井に呼びかけられたみことがリングへ戻ろうとするも、
 祐希子が必死にしがみ付いて離れない。
 助けに行こうとした桜井も龍子に押えられる中、10の場外カウントが数えられて両者リングアウト。
「……」
 怒りがさらにもう一段階上がりかけた桜井だったが、逆に目だけを据えて冷静になった。
 これで一対一、あとは自分が龍子を倒せば済むことだと思い直したのだが、
 やはり事はそう簡単に終わらない。
 リング上、既に組んだ状態から始まった最後の戦いは、桜井の猛ラッシュから始まった。
 膝を入れて龍子を離すと、左右の掌打からミドル、ロー、ハイと繋いで膝をつかせ、
「ハッ!」
 膝立ちになった龍子の側頭部を容赦無くミドルキックで薙ぎ払う。
 無防備に横倒れた龍子を冷ややかに見下ろしながら、桜井は起き上がるのを待った。
「うっ、く…」
 手探りで、正面に立つ桜井にすがって立ち上がろうとしている龍子はいかにも弱々しい。
 しかし、これまでのことを考えれば三味線を弾いているだけかもしれない。
 そんなことも、今の桜井にはどうでもよかった。
(何にしても、次で確実に仕留める!)
 やや右足を引いた構えは、見るからに必殺のハイキック狙い。
 例えどれだけ余力を残していても、一撃で決める自信がある。
 が、ここで今度は全くの外野から邪魔が入った。
 入場ゲートから鏡と神楽が飛び出すと、持参のイスを滑り込ませながらリングへ上がろうと試みて、
 阻止しようとするレフェリーと揉み合いを始める。
「待てっ、お前ら!」
「この期に及んでまだ…!」
 これを追いかけて来た小早川と、帰りかけていたみことが阻止側に加わり、大きな騒ぎになった。
 それでもなお、桜井の集中は切れない。
 押し合いの中、龍子が神楽の放り込んだイスへ飛びつこうとしたところをイスを踏んづけて止める。
「見苦しい…!」
「待って!」
 両手を前に出して卑屈な姿勢を取った龍子を構わず蹴り飛ばそうとしたところで、意外な声がかかった。
 場外乱闘の脇をすり抜け、頭に包帯を巻いた小川がリングインしてきたのだ。
 試合前に襲撃された若手側の参謀が、龍子から凶器を取り上げ、
「私にっ…!!」
 そう言ってイスを持ち、大きく後ろに振りかぶる。
「ちょ、待ってくれ!!」
 哀れなほど慌てふためいた龍子を見、ここでほんの少し戸惑ってしまったのが桜井の不覚だった。
 小川が振りかぶったイスは、横殴りに龍子ではなく桜井の顔面を直撃。
 昏倒したところを引き起こされ、プラズマサンダーボムをくらってしまう。
 イスをさっとリング下へ捨てた小川は、鏡と神楽が引きつけておいたレフェリーを促してカウントを入れさせ、
 その後は呆気に取られるみこと、小早川を押さえる役を手際良くこなした。


 試合後、団体始まって以来の大ブーイングが渦巻く中、それぞれのベルトを携えた龍子以下の四人と、
 真帆、鏡、神楽、そして小川の八人が、繋いだ両手を高々と掲げて勝利をアピールしている。
「私の策に、かかったようですね!」
 小川が投げ捨てた包帯の下には、何の傷もついていない。
 皮肉っぽい微笑とともに得意のフレーズを宣言した勝利の立役者を、桜井たちは呆然と見つめるしかなかった。

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by right-o | 2008-12-17 23:00 | 書き物