「サバイバーシリーズ」 TNA 11年目 7月

 龍子対桜井がノーコンテストに終わった翌週。
 試合開始前のリング上に、桜井と、先週の乱闘でベテラン勢の介入を防ぐ側に回った、
 伊達・みこと・小川・小早川の四人が立っていた。
 彼女らを代表し、桜井が慣れないマイクを握る。
「連日の乱入、今日こそは先輩方にどういうことなのか説明してもらいます。
 さあ、早く出てきてください…!」
 言葉は穏やかながら、口調は厳しい。
 普段は感情を表に出さない桜井でも、流石にああまで露骨に試合を邪魔されては、怒るのが当然だった。
 そして桜井が要求し終わると同時に耳慣れぬ新しい入場曲がかかり、
 龍子を先頭に、祐希子・市ヶ谷・ソニック・真帆の旗揚げ組ベテラン勢が、
 何故か全員黒のスーツを着て姿を現した。
 龍子、市ヶ谷がスラックス、残り三人がタイトスカートで、
 他の四人が意外に格好良く決まっている中、
 真帆だけはこの姿がよほど窮屈なのか、シャツのボタンを三つまで空けて胸をはだけている。
「一言で言えば、お前達にベルトがふさわしくないってことだ」
「馬鹿な。私はあなたと違って、乱入などに頼らず自分の力でチャンピオンになったんですよ」
 龍子の返答に対して、桜井がすかさずやり返す。
 力の上ではとっくにベテラン勢を追い越したと思っているリング上の若い選手達には、
 龍子達への遠慮など、ずっと以前に頭の中から消えている。
「そんなことは問題じゃない。まあ、私達にとってお前らを実力で捻じ伏せることなど簡単だが、
 そういうことじゃないんだ。ちょっと回りを見てみろ」
 龍子は両手を広げて、入場ゲートから客席をぐるっと見回した。
 その仕草だけで、少なくない数の観客が湧く。
「こいつらは、私達を見に来ているんだ。お前らじゃない。
 お前ら、映画に出たことはあるか?CDは?CMは?写真集は?
 私達は皆、全部やった。今だって毎月、方々からのオファーで引っ張りだこだ。嘘じゃない。
 言ってみれば、この私達の人気があったからこそ、団体がここまで成長できたんだ。
 それに比べて……」
 本当は桜井と同じく、今まで長いマイクパフォーマンスをほとんどやったことの無い龍子は、
 ここで一旦マイクを離して一息吐いた。
「…お前らは何だ。お前らの名前を知ってるヤツなんて、プロレスファンの、それも一部のオタクだけに過ぎないだろう。
 大して客も呼べないようなレスラーより、私達のようなスターにこそベルトはふさわしいんだ!」
 旧来の純粋な龍子ファンからすれば耳を疑うような発言だったが、
 意外にもブーイングと歓声が半々だった。
 かなりオーバーな表現ではあるが、龍子の言う全てが嘘ではない証拠と言える。
 が、この理論は若い選手達、特にストイックな桜井にとっては全く理解できない類のものだ。
「訳のわからないことを…。ベルトは人気の象徴ではなく、強さの象徴のはずです。
 あなた達のような、練習より芸能活動に熱心な人間には、もう縁が無いのが当たり前…」
「そーだそーだ、年食って動けなくなったオバサンに、ベルトなんて渡すもんか!」
 と、ここで横からマイクを奪った小早川が口を挟み、この一言で一気に話が進む。
「……なんですって?」
 最も過敏に反応したのは、市ヶ谷だった。
 龍子と祐希子も、平静を装いながらやや表情が硬くなる。
「オバサンじゃなきゃ、ババアだよ!実力じゃ勝てないから、汚い手を使って勝とうとするんじゃないか!!」
「あなたぐらい、今すぐ誰の手も借りずに八つ裂きにできますわよ!」
「やれるもんならやってみろ、ババア!!」
「待ちなさいっ!」
 本当に掴みかかって行こうとする両者を双方の陣営が宥めている中、
 ようやくGM霧子が事態の収拾に現れた。
 二つの集団の合間にある花道に立って、それぞれに向かって解決策を提案する。
「龍子さん達の無茶な言い分はともかく、ベルトは実力で争ってもらいます。
 ただし、桜井さん達もそれほど自信があるのなら、どんな形式でも構いませんね?」
「それが強さを比べるものである限り、私はどんな試合でも勝ってみせます…!」
「…わかりました。それでは来週のPPVで、ここにいる十人全員に、
 五対五のイリミネーションマッチを戦ってもらいます。
 その試合に、祐希子・市ヶ谷組のタッグベルト、小早川さんのジュニアベルト、
 そして桜井さんのシングルのベルト、全てのベルトを懸けること!いいですね!!?」
 実際のところ全く脈絡が無い上に、互いのベルトの数を考えれば不公平な解決手段なのだが
 桜井や小早川が強気に出た手前、若手組の誰も不満を言うことはなかった。
 しかし、何しろこのGMまで実はグルになっているのだから、
 本当はどう転んでも若手組には拒否権が最初から無かったりする。
 双方のメンバーと対立軸が明らかになりながら、こうして状況は余計に混乱していくのだった。

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by right-o | 2008-12-09 23:00 | 書き物