「ダブルインパクト」 マイティ祐希子&ボンバー来島VSフレイア鏡&神楽紫苑
NJWPのタッグベルトは、結局団体に馴染まなかった。
といっても、要はまだタッグ路線が盛り上がれるほど人員が育っていないだけのことだったのだが、
霧子はこれを他所から来たベルトのせいにして、入手一年ほどでさっさと新女に送り返してしまった。
ただ、当時のチャンピオンチームから大して不平が出なかったあたりは、
やはり選手達としても国内他団体のベルトには愛着が湧かなかったのかもしれない。
それから数年経ち、選手達が成長して数も増えるに従って、
気の合う相棒を見つけた者同士が、段々とタッグチームを形成し始めた。
例えば龍子&小川、祐希子&来島、鏡&神楽、真帆&ソニックなどであり、
彼女らはそれぞれ、師弟関係にあるとか性格が似ている、
あるいは生活習慣が近いといった理由から特に親しくなり、
霧子もその辺になんとなく配慮しながらマッチメイクを行っていた結果、
リングの上でも強い結び付きを示すようになっていった。
そういう次第から、今度は自前でタッグ王座を創設することになる。
さてどうやって初代王者決定戦を行おうかと思いながら、
霧子はとりあえずベルトのお披露目を行った。
金に赤文字の入った新品のベルトを片手に一つずつ持ち、
重いのを必死に我慢しながら、マイクが持てないために地声を張り上げて
リング上で王座の新設を宣言していた時、急に入場ゲートから入ってきたのが
上にあげた四組の一つ、鏡と神楽であった。
「あら、なかなか綺麗なベルトですのね」
「私達にこそ似合うんじゃない?」
そんなことを言いながら、勝手にベルトを取り上げて触っていると、
「待ちなさいっ!」
と、さらに祐希子・来島まで入って来て、たちまち睨み合いになった。
「それはオレ達のもんだぜ!」
「はぁ?あんたみたいな筋肉バカの腰には似合わないわ」
そんなやり取りの真ん中に立ってしまった霧子としては、
「あなた達、王者は戦って決めなさい!」
と言うしかない。
四人の思惑通りであった。
何事もプロレスにおいては、とりあえず先に言った者・やった者の勝ちである。
例によって月末のPPVで行われた試合は、
それほど激しいとは言えないながら、見ている側にとってはわかりやすい好試合になった。
力と技の正攻法で攻める祐希子組に対し、ブラインドタッチや巧みな介入を駆使する鏡組が引っ掻き回す展開。
元々、鏡と神楽は言うほどベルトそのものには興味が無く、
とりあえず目立っておきたいという気持ちの方が強かったが、
それでも取れるベルトならここで取っておきたい。
「ッ!?」
神楽が来島をロープに振ったところで、コーナーに控えていた鏡の長い脚が伸び、
反動を受けている来島の背中を打った。
ヒールタッグの初歩とも言える典型的なズルだ。
「このぉっ!」
怒った来島が鏡へ手を伸ばしたところで、これを避けた鏡が来島の頭を掴み、
そのままエプロンから飛び降りつつトップロープを使ってこれを跳ね上げる。
「本当に筋肉バカねぇ」
と、よろけた来島の背後に忍び寄った神楽が、一息にドラゴンスープレックスで投げきって固めた。
すかさずコーナーを飛び出した祐希子がカットに入る。
しかし、同じようにすぐ入ってきた鏡によって場外に叩き落され、
リング上に劣勢の来島を残してうまく分断されてしまった。
「さ、仕上げにかかりましょうか!」
頭を打った衝撃から立ち直りきらない来島を意外な力強さで担ぎあげると、
神楽はデスバレーボムで再び頭からマットへ叩き落した。
「……だあッ!」
が、気合と共に来島はカウント3ギリギリで肩を上げる。
「チッ、しつっこいわねぇ」
引き起こした神楽は、やや助走をつけて今度はSTOを狙いにいく。
これが決まれば、所謂神楽の必殺技フルコースだったのだが、
「……っ!?」
自分を背後に引き倒そうとする神楽の腕に、来島は歯を食いしばって抵抗した。
渾身の力を込めた来島の太い首に、幾筋か血管が浮き出て見える。
「おうりゃあぁッ!!」
ビクともしない来島に対し、神楽が諦めて体を離した瞬間、
来島の振り抜いた右腕が逆に神楽を薙ぎ倒した。
「恵理っ!」
ショートレンジのナパームラリアットを受け、ぐったりした神楽を引き起こす来島へ、
丁度良く鏡を振り払った祐希子がエプロンから声をかける。
「よし、上がれっ!」
来島は、無理矢理立たせた神楽の後ろから肩車で担ぎ上げると、
そのまま祐希子の正面を向いて立った。
「いくよッ!!」
それへ向かって、一旦トップロープを両足で捉えて飛び上がった祐希子が、
担がれている神楽の首を空中で刈り取る。
と同時に来島は、自分の前に掛かっている神楽の両足を跳ね上げたため、
神楽は勢いよく後ろに倒れつつ、後頭部から真っ逆さまに落下させられた。
「………」
場外から見ていた鏡まで顔をしかめるほどの酷い落ち方で、
鏡は神楽に同情しつつ、内心では自分がくらわずに済んだことを少し喜んだりした。
「あんたは本ッ当に……!少しは助けなさいよ!!」
「はいはい。悪かったですわ」
頭に氷嚢を当てて冷やしている神楽を横に、
鏡はそそくさとバックステージへ引き上げていた。
後ろのリング上では、ベルトを腰にした祐希子と来島が抱き合って喜んでいる。
「…ま、ガラじゃありませんわね」
チラっと振り返りつつ、鏡はそう漏らした。