「パーフェクトドライバー」「バイアグラドライバー」 渡辺智美VS小早川志保

 慣れないヒール役に戸惑いながらも、伊達は激闘龍を席巻していった。
 元々、デビューした団体では期待の新人であり、
 さらに数年間フリーとして様々な団体で揉まれてきた伊達の実力は抜けている。
 それに加えて、少し危なくなればすぐに吉原とつかさが試合に介入して相手の邪魔をするために、
 伊達は大して苦戦することも無いまま、ほぼ全てのレスラーを叩き伏せ、
 ついでに激闘龍で唯一のベルトまでいつの間にか奪ってしまった。

 もちろん、他の選手達にとっては面白くない。
 早速、伊達への挑戦者として自他共に認めるエースである小早川が名乗りを上げたが、
「あんた、一回負けてるじゃない」
 と、横から文句を言ってきた者がいる。
 この選手こそ、旗揚げ以来小早川との二枚看板で激闘龍を引っ張ってきた、
 もう一人のエースだった。 


『TOKYOOOOOOOOOOOO!!!!』
 およそプロレスラーの入場曲とは程遠い、ダンスミュージック調の曲が流れる中、
 羽根のついた真っ白いガウンを羽織り、顔の上半分を隠すピンク色の仮面をつけた渡辺智美が、
 客席の中から姿を現した。
 首にチョーカー、耳には大きなピアスをつけ、ヘソの周囲に太陽のタトゥーシールを貼っている。
 そんな渡辺が踊りながら観客の間を練り歩いて声援を受ける様子は、
 プロレスラーというよりはダンサーそのものという感じである。
 またリング上でも本物のダンサー二人が曲に合わせて体を動かしていて、
 入場の最後は、この二人と合流して一頻り踊った後、コーナーから大きく蜻蛉をきって締める。
「さあ、今日もみんなを気持ちよくトリップさせてあげるっ!」
 すっかり会場を自分のものにしてしまった渡辺を、
 先に入場していた小早川が下からつまらなそうに見ていた。
 伊達が参戦するずっと以前からライバル関係にあるこの二人は、
 試合以外の場面でも、常に対抗心を燃やし続けている。

 激闘龍を代表する黄金カードである二人の対決は、まず華麗な空中戦から始まった。
 互いのドロップキックが交錯する立ち上がりから、小早川が場外へきりもみ回転してトルニージョで先制すれば、
 すぐに渡辺もトップロープからのラ・ケブラーダでお返し。
 リングに戻ると、渡辺はコーナーの上に座らせた小早川の前へトップロープを足場にして立ち、
 何故か腰をくねらせてからの雪崩式フランケンシュタイナーで叩きつけたが、
 頭から落とされながら、直後に小早川はこれをローリングクラッチホールドに切り返す。
 互いの手の内がわかっている二人の勝負だけに、どちらも主導権を握らせまいと拮抗した勝負が続いた。

 そうこうしている内に、試合は段々と序盤の華麗さを離れてエグイ次元に突入していく。
「やぁっ!」
 と、渡辺が急角度のDDTで小早川を突き刺して首で立たせ、
「よいしょっ!」    
 のどかな掛け声と共に、小早川はパイルドライバーの姿勢からジャンプして渡辺の頭頂部をマットに叩きつけて、
 さらにスワンダイブ式のフットスタンプで踏みつけて追い討ち。
 こういった危険技を事も無げに繰り出すあたり、この団体の試合は他と少し感覚がズレているかも知れない。
 それはともかく、先に勝負をかけたのは小早川の方だった。
「決めるよッ!」
 左腕で首を抱えてブレーンバスターの体勢に組むと、向かい合った渡辺の右足の膝下辺りを右手で引っ掛けて左足と交差させ、
 上に持ち上げつつ右手を引いて渡辺の体を逆さにしながら、自分は開脚してジャンプ。
 そして頭から落とした渡辺の足を放さずに、そのまま固めてフォールへ。
「…くぁッ!」
 しかし、渡辺はギリギリでこれを跳ね返した。
「チッ!」
 それならば、ということで、小早川は渡辺をコーナーに乗せ、一旦身を屈めてから一気に伸び上がってのアッパー式掌底から、
 リング中央を向いて渡辺の前に立ち、両手で脇を掬って前方に放り投げる。
 ここから大きく体を屈伸させてボディプレスにいくのが必勝パターンだったが、
「ごほッ…!!」
 縮めた体を一杯に開いたところで、待っていた渡辺の立膝が鳩尾を直撃。
 何度もこの技で敗れた経験のある渡辺にしてみれば、格好の逆転ポイントだったのだ。
「よしっ、攻守交替!いくよッ!!」
 腹を押えてどうにか立ち上がった小早川の、さらに腹部へソバットをめり込ませると、
 間髪入れず足の付け根をステップにした低空の延髄斬り。
 そして前屈みにさせたところで、コブラツイストの要領で背後から左腕を首に回しつつ、
 股の間から通した右手で小早川の左手を掴み、その体勢のまま一気に引っ張り上げて小早川を右肩の上でうつ伏せにすると、
 やはり開脚しながらジャンプして、頭からマットへ叩き落した。
「終わりっ!」
 頭の方から両膝を肩に乗せて押さえつけながら、渡辺はカウントを指折り数えていった。


「ちっっっくしょうっ!!」
「へへん。ま、これがあたしの実力ね!」
 はしゃぎ回る渡辺と、マットを叩いて悔しがる小早川。
 なんともわかりやすい勝者と敗者の構図だった。
 しかし、話はこのままでは終わらない。
「さて、伊達ちゃんへの挑戦はあたしに決まりってことで。それじゃ早速勝利のダンスへ……」
「ちょぉっと待ったッ!!」
 伊達、吉原、つかさのヒールトリオが現れたが、何故かつかさがマイクを持ち、
 チャンピオンであるはずの伊達が一番後ろで小さくなっている。
「なに勝手に挑戦者決めちゃってるのかな~?そういうことはチャンピオンが決めるんだよ。
 ね、遥さん?」
「いや、別に私は誰でも……」
 自分で振っておきながら、伊達が何か言いかけると、向けていたマイクをパッと引いてしまう。
「どっちも弱っちぃけど、どうせならその中でも弱い方がいいよね。
 というわけでぇ そっちの悔しがってる方が次の挑戦者ね。はいコレ決定~!」
「え、ちょっと!何よそれ!?」
 リング上で怒っている渡辺より、複雑な表情をしている小早川より、
 そしてブーイングしている観客よりも、誰より伊達こそが内心で、
(それはないよ…)
 と思っていた。
 やっぱり、伊達にはヒールというものがよくわからない。

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by right-o | 2008-11-20 23:28 | 書き物