TNA リプレイ 4年目1月~2月 「セントバレンタインデイズマサカー」

 二月十四日。
 この日、今年初めてのPPVにおいて、市ヶ谷の復帰戦が組まれていた。
 昨年末の世界王座戦で敗れて以来行方をくらませていた彼女が、
 つい一週間前に、
「来週、戻りますわ。私の相手を用意しておきなさい」
 と霧子へ一方的に告げてきたのだ。
 霧子としてはカードを組み直す必要が生じて面倒ではあったが、
 同時に市ヶ谷の態度が以前と変わらず大きかったことで、少し安心してもいた。
 その影で、市ヶ谷について一つ重大な事柄が年を越して残っていたことは、
 他の仕事に追われてすっかり忘れてしまっている。

 市ヶ谷の相手は、桜井千里だった。
 彼女はTNAの旗揚げ組を除く若手の筆頭株で、
 まだキャリアは浅いながらも、近頃は目を見張るほどの成長を見せ、
 最近では第一線に食い込んで活躍しつつある。
 そういう意味で、この団体における大物扱いである市ヶ谷との対戦は、
 ファンからすれば中々に興味深いカードだったのだが、
 結局それは実現しなかった。

 桜井の入場時、背後から例の「ビューティフルピープル」が襲い掛かったのである。
「……!?」
 鏡がいきなり無言で殴り倒した後、二人掛かりで場外フェンスに叩きつけ、
 さらに場外に引いてあったテレビカメラのケーブルを首に巻きつけて締め上げ、痛めつける。
 そしてリングに上げた桜井を、神楽が両肩に乗せてデスバレーボムで仕上げに入ろうかという場面になって、
 ようやくこれに助けが入った。
「あなた達、これはどういうことですの!?」
 次に入場するために控えていた市ヶ谷が、慌ててリングへ走り込んで来たのだ。
「どうって、別に何てことはありませんわ。
 ただ今夜のあなたには、こんな小娘と戦うより他に、大事な用があるんではなくて?」
「この前の答え、さっさと聞かせて欲しいのよね」
 鏡も、桜井を放り投げた神楽も、全く悪びれる様子は無い。
「答えですって?そんなものは初めから決まっていますわ!
 誰があなた達のような下郎と手を組むものですか!恥を知りなさい!!」
 大見得をきった市ヶ谷へ満場の拍手が送られる中、
 目前にいる二人だけが「フッ」と顔を見合わせ、呆れたように笑う。
「それなら、仕方がありませんわ」
「組まないって言うなら、お互いに敵よねぇ?あたし達を敵に回せばどうなるか、教えてあげようじゃないの」
「それはこちらのセリフですわ!…ところでそこのアナタ!
 あれだけ馬鹿にされて、まさか何もせずにいるつもりですの!?」
「…いいえ、私も戦います」
 解放された桜井も、拳を握って鏡と神楽を睨みつけている。
「よろしいですわ。もっともこんな二人程度、本来は私一人で十分ですけど。
 さあGM!さっさとこの場に出てきてカードの変更を伝えなさい!
 そこの品性の欠片も無い二人を、私とそこので叩きのめしてやりますわ!」
『あ、ハイ…』
 慌ててマイクを持ってバックステージから出て行きながら、
 霧子は内心で、
(これは、オイシイかも)
 と思っている。
 ここまで分かり易い善悪の構図は、不思議と今までのTNAには無かった。

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by right-o | 2008-11-16 21:12 | 書き物