「ジャンピングハイキック」 サンダー龍子VSビューティ市ヶ谷
年齢は龍子と変わらないが、体格はこれを上回り、何よりも過剰なほどに雰囲気がある。
もっともその性格には難があるかも知れないが、見ている側としてはあれぐらいの方が面白いし、
高慢な立ち居振る舞いも、彼女ぐらい板についたものであれば逆に痛快でもあった。
しかし、そんな市ヶ谷もここまで不思議とタイトルには縁が無い。
龍子の世界王座はもちろんのこと、龍子がそれぞれ別のパートナーと挑んだ
対ジョーカー&カラスのタッグタイトル三連戦でも、市ヶ谷と組んだAACタッグのみは敗れている。
唯我独尊のお嬢様にも、ちょっとした焦りはあった。
今年二度目になる龍子対市ヶ谷の王座戦は、年末のPPVのメインで行われた。
(一体、これは人間ですの……ッ!?)
この試合三度目のビューティボムを跳ね返され、市ヶ谷は言葉を失うしかなかった。
龍子と比べ、純粋な腕力では市ヶ谷がやや勝っているものの、
毎回この二人の勝負を分けてきたものは、龍子の圧倒的な体力だった。
それでも一応は優勢な流れである限り、攻撃の手を休めるわけにはいかない。
「このッ!」
「ぐっ…!」
ロープに飛んだ市ヶ谷のフロントハイキックが起き上がった龍子の顔面を捉えたが、
龍子はよろけただけで堪えた。
それどころか、よろけつつ不意に市ヶ谷の肩を掴むと、それを支えに体を持ち上げての延髄斬り。
そして前傾した市ヶ谷を捕まえ、強引にパワーボムで持ち上げようと試みた。
市ヶ谷としては、これだけは絶対にくらうわけにいかない。
持ち上げられまいと必死で堪えていると、一旦持ち上げるのを諦めた龍子が素早く脇にまわる。
「がっ!?」
容赦無いステップキックが市ヶ谷の額を突き上げ、顔が跳ね上がる。
一瞬後、低く飛び上がった龍子の足の甲が、再び市ヶ谷の顔面を襲った。
かける方はほとんど延髄斬りと変わらない軌道ながら、
後頭部ではなく、正面からの顔を狙った一撃。
(ここで負けるわけには……!!)
頬が波打ち、意識が飛びそうな打撃を受けながら、市ヶ谷は意地で踏み止まった。
これができるのは、団体内で龍子の他には市ヶ谷だけだろう。
しかし、続くプラズマサンダーボムまでは返せなかった。
「くっ……」
試合後。
珍しく、市ヶ谷は負けた悔しさを滲ませながら座り込んでいる。
文句のつけようのない完敗だった。
ベルトを肩に掛けた龍子は、その様子に対して見下すでも自分を誇るでもなく、
ただじっと見つめていた。
二人とも、背後に忍び寄る影には全く気づいていない。