TNA リプレイ 4年目7月~8月 「ハードジャスティス」

 PPVという慣れないテレビ用のビッグマッチ形式にスタッフ全員があたふたし、
 内容としては龍子が真帆を、コリィがソニックを下してそれぞれの王座を防衛、
 そして市ヶ谷が祐希子との次期挑戦者決定戦を勝ち抜いた一夜から、明けて七月。
 一月置いて八月のPPVに向けて、霧子は今の内からマッチメイクの構想を始めなければならない。
 メインイベントは龍子対市ヶ谷の世界王座戦で決定しているとして、
 他の試合については、主に選手同士の因縁と今後のタイトル戦線を考慮してカードを組む。
 そのために、当然ながら直に全ての試合を見、また選手の意見に耳を傾けることが必要であった。


 ところで、諸事が無駄にアメリカ志向のこの団体では、
 入場ゲートから暗幕一枚隔てたバックステージ入口のことを、「ゴリラ・ポジション」と言う。
 名前はどうでもいいが、とにかくそのゴリラ・ポジションから霧子は興行中常に各試合を見守っているのだ。
 ある日、とある地方会場での休憩明け、珍しい選手が霧子の脇を通ってリングへ向かって行った。
(おや?)
 銀髪を靡かせて花道を歩いて行く後姿は、間違い無くフレイア鏡である。
 彼女は旗揚げから今日まで、GM室に来て何か要求することをほとんどせず、
 今の形式に変わってからもリング上で自己主張したことは一度も無かったために、
 霧子にとってこれは意外な光景だった。

「私は大勢の前で自分の要求を述べるような、はしたない真似は好みませんの。
 でも今日ばかりは、GMに聞いてもらわなければなりませんわ」
(なんだろう?)
 暗幕の影で、霧子は出て行く時のために自分用のマイクを探した。
「でもその前に、まずは神楽さん、今すぐリングまで来てくださる?」
 暫くして、明らかに今まで帰り支度をしていたらしい神楽紫苑が普段着のまま表れ、
 拍子抜けした霧子からマイクを受け取ると、赤毛の頭を掻きながらリングに上がる。
「なに?あたし、もう自分の試合終わったからホテルに帰りたいんだけど」
 常に眠たそうにしている目が、いつも以上に細い。
 すぐにでも一つ欠伸をしそうな、そんな気だるい表情をしている。
「…相変わらずね。私はあなたのそんな態度が前から許せませんの」
「まあ、あたしだってあんたのことは前から嫌いだからね」
 こんな会話をしつつも、二人は互いに余裕を持った微笑を絶やさない。
 が、双方とも目は全く笑っていなかった。
「だから、そろそろ大きな舞台の試合で、懲らしめてやりたいと思うのですけど」
「いーよ、別に。どっちが懲らしめられるのかは、ともかくね」
 時にこんな形でカードが決まることもある。
 霧子にしてみれば、儲けものであった。

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by right-o | 2008-11-11 20:24 | 書き物