「TLCマッチ」 武藤めぐみ&結城千種VSグリズリー山本&ガルム小鳥遊VS村上千春&村上千秋

+技 「イベント・オメガ」「3D]「コンチェアト」

「めぐみ、それは……?」
「ん?脚立だけど」
 5mはあった。
 どうせ危険は免れない試合形式なのだから、めぐみのやり方に付き合ってみよう――
 そう決意したはずの千種でも、流石にこれは驚いた。
 どこから調達してきたのか、足に補強まで施された異様な脚立を引き摺って
 控え室まで歩いてきためぐみは、それを一旦廊下に放置して控え室に入ってきた。
 二人とも、コスチュームからして普段と違う。
 揃いの黒いカーゴパンツに、上は肩紐無しのビキニスタイルのトップス、
 それと同じく黒いシースルーの薄い長袖を着ていて、ベルトだけが白い。
 ついでにめぐみは、左半身の顔と腕に蛍光塗料を塗って龍か何かの模様を描いていたりする。
 全てめぐみの発案だった。
 余程これからの試合が楽しみらしい。
「千種、凄い試合をしようね」
「うん」
 今までのことを考えれば良くない兆候ではあるが、
 反面ここまで積極的なめぐみを見るのは初めてだし、応援してあげたい。
 そう考えるだけで、千種の方もぐっとやる気を出すことができる。


 一見して異様な光景だった。
 リングの周囲には木製の板に金属の粗末な足をつけた簡易テーブルとラダー(脚立)、
 そしてイスが、一セット五組に分けてリングを取り巻く場外フェンスに立てかけられ、
 リングを囲んでいる。
 めぐみがどこからか持ってきた巨大なラダーは、花道の真ん中に立った状態で設置されていた。
 これらの道具を駆使して、リング上空大体3mに吊るされた二つのベルトを三チームで奪い合うのである。
 過激な試合にならないわけがない。


 明かりを落とした入場ゲートに、光る龍の模様が揺れて、
 まずは武藤めぐみ、結城千種組が入場してきた。
 普段と異なる衣装で登場した二人に、所属団体からついて来たファン達が驚きの声を上げる。
 衣装ばかりでなく、持参して設置させた一際大きなラダーの下を、
 身を屈めてスッと横切るめぐみの姿は、何やら不気味さも漂わせていた。
 それに比べて千種の方は、慣れない服装にいくらか恥かしそうだ。
 続いてグリズリー山本・ガルム小鳥遊の入場が始まると、
 観客の声援が一気に野太いものに変わる。
 ここは彼女達のホームリングでもあり、また、この試合形式を提案したのもこの二人。
 二人の大型レスラーは花道をのしのしと大股で歩いてくると、
 めぐみの持ってきたたラダーを見、「ほう」と呟いてニヤリと笑う。
 これは面白くなりそうだ、ということだろうか。
 最後の村上姉妹については、場所が変わっても普段通り、あまり歓迎されなかった。 
 花道脇の観客に対して何やら喚き散らしながら、リングに近づくと、
 その周囲にあるアイテム群を忌々しそうに眺め、やがて観念してロープをくぐった。


 ゴングが鳴らされると同時に三軍入り乱れての混戦になったが、
 まずはめぐみと千種が場を席巻した。
 いつの間にか村上姉妹が揃って場外に放り出された後、
 両腕でラリアットに来た山本を掻い潜ってかわすと、振り返り様にダブルのトラースキックをくらわせる。
 続けて小鳥遊を捕まえて二人でコーナーに振り、その手前で千種がマットに手をついて四つん這いになった。
「めぐみっ」
「はあッ!」
 千種の背中を踏み台にしためぐみは、空中で真横に一回転して得意のフライングニールキックを串刺しで決めた。
 こうして山本・小鳥遊を蹴散らしたところへ、
 何を思ったのか村上姉妹がそれぞれラダーを一脚ずつ持って上がってきて、当たり前のようにドロップキックで迎撃される。
 そして千秋をもう一度外に投げ捨て、千種が千春をボディスラムでリング中央にセットすると、
 二人は向かい合って対角のニュートラルコーナー前にラダーを立て、その上に上がった。
「「せぇ~のっ!」」
 そこから真ん中に寝ている千春に向かって飛び、めぐみはボディプレス、千種はレッグドロップで落下。
「ぐぇっ!」
 敵を押し潰して呻かせた二人がハイタッチをした瞬間、横合いから小鳥遊のぶん投げた机が飛んできた。
 不意打ちで頭に机をくらって倒された結城・武藤を尻目に、今度は小鳥遊・山本の時間が始まる。
「山本ぉッ!」
「なんだ大将!?」
「テーブルだぁッ!!」
 というよく分からないやり取りの後、山本がテーブルをさらに一つリングへ投入して中央に設置。
 そこへ小鳥遊は既にフラフラの千春を横たえ、その上から千種をパワーボムで叩きつけて真っ二つ。
 と、いつの間にかめぐみの姿が無い。
 しかし、攻めながらも、花道にあった巨大ラダーがいつの間にかリングの前に移動していることに気づかない小鳥遊ではない。
「千種っ」
「へっ!」
 果敢にもラダー上からリング内に向かって跳んだめぐみを苦も無く受け止めると、
 一旦下ろしてロープへ振る。
 その頃には、壊れたテーブルとそれに乗っていた二人は脇に片付けられ、
 中央には山本によって新しいテーブルがセットされていた。
「いくぜ山本っ!」
「おうっ!」
 小鳥遊が、返ってきためぐみの両足を前から抱きかかえてフラップジャックで上に持ち上げると、
 テーブルを挟んだ向こう側にいた山本が、跳ね上がっためぐみの頭をダイヤモンドカッターに捕える。
 その状態のまま、テーブルの上へ落として破壊。
 瞬く間に三人をテーブル葬で仕留めた小鳥遊・山本が得意気に立ち上がろうとしたところへ、
 下でこっそりと隠れて機会を伺っていた千秋のイスが振り下ろされる。
「このっ!あんまりアタシらを舐めんなよッ!!」
 それぞれ交互に二発ずつ、イスがへこむ程に大きな頭を殴りつけると、
 持っていたイスを倒れている千春の方に投げ、自分は用意のもう一脚に持ち替えた。
「姉貴、立てっ!」
 妹に促されて、へろへろの姉はなんとか立ち上がり、棒立ちになっている小鳥遊を挟む位置に立つ。
「「オラァッ!!」」
 左右から力一杯、イスで頭を挟み込むように打たれ、流石の小鳥遊も大の字になった。

 その後もそれぞれが得意の武器を手にしてやりあっていたが、
 試合時間が十分を過ぎた頃になり、ようやく上に吊るされたベルトを巡る攻防、
 つまりリング中央にラダーを立ててこれを上り、手を伸ばすことが戦いの中心になっていく。
 まず、山本が行った。
 しかし、上っている途中で反対側から千秋が来、ラダーの上で殴りあいをやっている内に、
 その隣にもう一つラダーを立て、千秋と同じ方向から千春まで上ってきて加勢する。
「いくぜ千秋!」
「おう!」
 姉妹は、ラダーの上で山本をなんと合体ブレーンバスターの体勢に取ると、
 そのまま巨体を背後のマットに叩きつけるべく必死に腰を入れたが、
「うおおりゃぁぁぁぁぁ!!!」
 という気合一閃、山本に反対側へ投げ返され、三人揃って轟音と共に落ちていった。
(負けてられないっ!)
 場外のめぐみ・千種は、二人掛りで小鳥遊を捕まえてテーブルに寝かせたところだった。
「千種はベルトをお願い!」
「めぐみは?」
 とは聞かなかった。
 傍に自前の特製ラダーがそびえ立っている。
 ここで飛ばなければ、めぐみの病気が収まらないのだろう。
 千種は小鳥遊が逃げないように上からイスで叩いて念を押すと、
 一人ベルトを目指してリングへ入った。
 めぐみの方は、ラダーを二段飛ばしてさっさと上り切り、
 頂点に両足を揃えて立つ。
 眼下の小鳥遊が少し小さく見えた。
 めぐみは大胆にも立ったままで目を閉じ、少し心を落ち着ける。
 こうしなければ、試合中は興奮し過ぎて歓声がうまく聞こえないのだ。
 満場が、期待と驚きの歓声を自分に向けているのが良くわかった。
(よしっ)
 地上5mから迷い無く飛び立っためぐみは、逆さまに反り返りながら落下。
 直前で背中を丸め、今夜はきっちり机ごと小鳥遊の体を押し潰した。

「めぐみ…」
 大歓声の中、千種はひとり呆れながらラダーを上っている。
 これで気が済んだことだろうが、お陰で援護は望めなくなった。
 なんとしても、これで決着を付けなければならない。
「もう、少し…」
 めぐみ程には高さに慣れない千種が、不安定な足場の上でようやくベルトに手をかけた時、
 いきなり乗っているラダーが大きく揺れた。
「ちょっ…!?」
 山本を排除した村上姉妹がラダーを傾けて、乗っている千種を場外へ落とそうとしている。
 体を支えられるものは、唯一上にぶら下がっているベルトしかない。
 千種は輪になって二本吊ってあるベルトの内の一本にしがみついていたが、
 そうしている内に足元のラダーは完全に撤去され、千種は宙ぶらりんになった。
「チッ、渋てーな」
 そう言うと、姉妹は千種が上っていたラダーをやや離して設置し、
 その上に千秋が後ろ向きで上って、空中で所在無く揺れている千種を伺った。
(ど、どうしよう…)
 この試合はベルトを取れば勝ちなので、これでベルトが外れて千種と一緒に落下すればそれでいいのだが、
 意外にもベルトの留め具はしっかり作ってあるものらしく、人一人の体重がかかってもビクともしない。
 何とか片手を離して外そうとしているところを、両手を開いてラダーの上で前傾した千秋が狙っている。
「動くなよぉ…ッ!」
 空中の千種にタックルをかまして叩き落そうということらしい。
「くっ…」
 体を振り子のように左右に揺らして必死に抵抗する千種の動きを読み、
 千秋がまさにラダーの上から飛び出そうとする寸前、二人の位置関係からすると
 真横にあたるロープの上に、突然影が躍り上がった。
「お!?千ぁ…」
 下でラダーを押えていた千春が止めるのも間に合わずに飛んだ千秋が、
 空中の千種を捕まえる寸前、ロープをバネにして有り得ない高さまで一気に跳躍しためぐみのドロップキックが突き刺さる。
「ぐげっ!?」
 全く予想していない場面で横っ面に両足を叩き込まれた千秋の軌道は大きく千種を逸れ、
 なんとロープを超えて場外に墜落していった。
「めぐっ…!」
 そして千種が嬉しさで声を上げかけた時、掴まっていたベルトがようやく外れ、
 千種と一緒になってマットへ落ちた。


 一体誰が勝ったのか、試合後のリング上を一見しただけではわからない。
 山本と小鳥遊はようやく場外で起き上がろうとしており、千春だけは無事に動いているものの、
 とんでもない落ち方をした妹を気遣って大慌てしている。
 勝者達に至っては、並んで横になったまま動けなかった。
「疲れたね、めぐみ……」
「…うん」
 聞いた千種の方は気疲れが大きく、頷いためぐみの方は肉体的な疲労が大きい。
 自分に付き合わせたせいで、千種まで負けさせたくない。
 その一心で、めぐみは無茶をした体の上にもう一つ無茶を重ねたのだった。
 もちろん千種にはそれが十分伝わっている。
「はあ……」
 緊張が解け、抑えられていた痛みが段々滲み出てくるのと一緒に、
 千種の耳にも周囲の拍手と大歓声が次第にはっきりしてきた。
 確かに普段の試合とはまた違った興奮が含まれているのがわかる。
 ほんの少しだけ、千種はめぐみの気持ちが理解できた気がした。       

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by right-o | 2008-11-04 21:39 | 書き物